―名品コイン―

古代ギリシャコインのモチーフはその土地の祖先神や守り神、また農産物や戦闘用の馬や武具などが主なものでした。 当初エジプトやオリエントの影響をうけたアルカイック時代から短時間の内にクラシックまたヘレニズム時代へと驚くべき早さで彼等の芸術を昇華させていった原動力は何だったのでしょうか。 ともあれ紀元前の昔、日本がまだ縄文時代から弥生時代に移ろうとしている時、地中海を中心とする古代ギリシャ文明圏では、こんなにも完成度の高い芸術の華が咲き誇っていたのです。 このコーナーではスタイル、状態ともに抜群なものを選んで紹介します。(一般的なものはこれほどレベルが高いものは稀です)




アテネ 紀元前440年頃
テトラ(4)ドラクマ銀貨 約23mm
女神アテナの象徴である梟

アテネの全盛期のコインがこれであり、また古代ギリシャの代表選手といえます。 通常よくあるタイプの少し前のタイプで、その区別は表面でもつきますが、特に裏面の梟にその違いが顕著に表れています。  このコインは特にデザイン/状態共に優れた物です。 よく教科書に使われている大英博物館所蔵品に近い物で貴重です。


コリント 紀元前350年頃
ステーター銀貨 約22mm
コリント式兜を冠る女神アテナ

あまりにもポピュラーなコリントのステータ銀貨ですが、これくらいスタイルの良い物は少ないと思います。また女神アテナの背後にゼウスの小像が付け加えられていますが、製造時に両方が欠けないよう注意が払われておりフランも大きく、あるいは手本銭のような性格のものかもしれません。 アテナ神とゼウス神の間に彫刻家のものと思われるサインがあり自信作だったのかもしれませんね。


カッパドキアの大守 ダタメス 紀元前378―372
ステーター銀貨 約23mm
神アナと大守ダタメス

ダタメスはペルシャ王宮の護衛兵から身を起こしカッパドキアの大守にまで出世した立志伝中の人物で非ギリシャ人ではもっとも勇敢で聡明だったと称されています。 このコインでは神アナ(裸身)と大守ダタメス(着衣)が向き合って何やら対話をしている場面が刻まれています。 ギリシャ劇の1場面を見るようでとても興味を引かれます。


シラクサ 紀元前400年頃
デカ(10)ドラクマ銀貨 約35mm
クァドリガ(4頭立ての戦車)とそれを祝福する勝利の女神ニケ

ギリシャ本土のコリントからの植民市として出発したシラクサは、交易により富を蓄えシチリア1の都市国家として栄えました。 このコインは堂々とした美しいコインとして有名ですが、通常のテトラ(4)ドラクマと違い、敵対するカルタゴに戦勝した記念として特別に発行されたとの伝承があります。 ともあれ古代ギリシャコインで最も有名なコインの1つといえるでしょう。 表面にはクァドリガ(4頭立ての戦車)とそれを祝福する勝利の女神ニケが刻まれており、戦勝の気分が良く表わされています。 下部の鎧兜に臑当ては戦利品でしょうか。  このコインは高価なので贋造品があり、注意を要します。



ゲラ 紀元前420―415年頃
テトラ(4)ドラクマ銀貨 約24mm
川の神・ゲラの半身像

ゲラはシラクサやアクラガスとともにシチリアの有力都市国家で、紀元前7世紀頃クレタとロードスの植民都市として創設されました。 ゲラの名前はその都市の近くの川の名前ゲラに由来し、守神も(人面牛の)川の神ゲラを選び、コインにもその姿をとどめています。


バクトリア王国 紀元前171―135年
テトラ(4)ドラクマ銀貨 約33mm
エウクイラティデス1世

従来バクトリアのコインはみな希少なものでしたが、近年発掘品と思われるものの出現により以前ほどの希少性はなくなりました。 それでもなおその輝きがなくなることはありません。 特にエウクイラティデスの、このコインは通常のタイプと異なり、槍を構えた英雄の姿を借りた希少タイプで、自らインドを征服しようとした野望を感じることができます。 彼は世界最大の金貨を作ったことでも知られています。


トラキア王国 リュシマコス 紀元前305―283年
テトラ(4)ドラクマ銀貨 長径32mm
アモン神の姿をしたアレクサンドロス大王

リュシマコスは、アレクサンドロス大王の急死の後、分割統治されたアレクサンドロス帝国遺領の内、トラキア王国の創始者です。 リュシマコスのコインは大王の威光を引き継いだ証に、アモン神の姿をしたアレクサンドロス大王を刻んでいます。 その中でもこのコインの彫刻はアレクサンドロス大王の類品中でも特に優れたもので、大英博物館蔵のものと同じ刻印でヘレニズム芸術の精華を示しています。  光源を変えて2ショット撮ってみました、ライティングでずいぶん感じが変わるでしょう?





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