―古代コインは、どう作られたか―

古代ギリシャのコインは近代コインとちがい、1つ1つハンマーで作られた手作りの工芸品的なもので、それゆえ手の温もりや味わいを感じます。

フランス造幣局のメダルに刻まれた当時の製作状況
左がオリジナルですが、これでは打刻に力が入らないので修正してみました(右図)



当時の製作の道具

 共和制ローマ時代のデナリウス銀貨に刻まれた
 製作のための道具一式。
 ヤットコはコインの元になる熱した平金をつかむ
 ためのもので、平金を熱するのは柔らかくして、
 足りない圧力を補い打刻を容易にするためです。



製作の行程

 1,熱して冷めきる前のブランク(平金)をダイ(表面刻印)と
   インキュ−ズ (裏面刻印)の間に挟む。
 2,インキュ−ズをハンマ−で打刻し、ブランクに図柄を刻印する。
 3,インキュ−ズを離す。
 4,完成したコインを取り出す。


陰打(かげうち)コインができてしまう行程

 1,製作行程の最後でインキュ−ズ にコインが付着したことに
   気づかずに、次のブランクを用意してしまう。
 2,コインが付着したままハンマ−で打刻する。
 3,インキュ−ズを離す。
 4,陰打コインができてしまう。



陰打コインの例

 ネアポリス(イタリア、カンパニア地方)
 ジ(2)ドラクマ銀貨



コイン刻印の素、インタリオ(陰刻)
コインが発明される遥か前から印章としてのインタリオが存在し、個人や公の認証として封印等に使用されました。コインが
発明されてすぐに、その品質を保証するものものとして刻印を押すようになります。その発想や技術的裏付けはインタリオに
あると考えるのが自然だと思います。写真のサンプルは時代が下ってローマ時代のリングに装着されたインタリオですが、キ
ューピッドがレスリング遊びに興じている情景を表したもので愛らしいものです。




シラクサの古代コインと火縄銃の弾
シラクサで作られた銀貨の地金(平金)はコインの形状から推察すると、火縄銃の弾丸の製造方法と同じではないかと思われ
ます。コインの側面に残る突起状の跡は左右に割れる型から作られたことを伺わせます。古代であるにも関わらずコイン重量
の誤差が少ないのは、定量化できる型がそれを可能にしているからでしょう。




銅貨の平金 (鋳造による円錐台型の例)
銅貨の一部に特徴的な平金があります。 カルタゴ、アクラガス、エジプト、シリアなどの銅貨の多くに円錐台型をした物が
ありますが、これらの平金は鋳造によるもので、型抜けを良くするため側面に大きなテーパーが付けられ、結果的に円錐台型
になっています。鋳造だった証拠に湯口の痕跡が見てとれます。又湯口は両側についている例がありますので連続した型もあ
る事をうかがわせます。このように東洋の貨幣製造と同じ方法でしたが、型に直接模様を彫り込まず最終的に打刻により仕上
げた理由は不明です。単に考えつかなかっただけかも( ̄▽ ̄;)ハハ




例外的製造法(初期コイン)
初期古代ギリシャコインの特徴は、日本の豆板銀のようなコロンとした形状です。そしてそれ以降アルカイック期→クラシッ
ク期→ヘレニズム期とだんだん厚さを減らし相対的に径が大きくなっていくという公式があります。 しかしコイン発生初期
にイタリアの各都市で、この公式によらないユニークな製造方法で作られた一群があります。それは平金を薄く延ばし、それ
を表裏同じデザインの凹/凸刻印を組み合わせて作成するもので、ほとんどが希少なコインです。 シバリスの他にはメタポ
ンティオン(麦の穂)/ポセイドニア(ポセイドン)/カウロニア(アポロ)/クロトン(トリポッド)があります。




歯車状の側面を持ったコイン(Serrated coins)
Serrated coins(直訳すると”鋸歯状のコイン”)という歯車状の側面を持ったコインがあります。よく目にするのはセレ
ウコス朝シリアの銅貨で、セレウコス4世からアンティオコス6世の発行した、およそ50年間の銅貨に見られる特殊な形
態です。それではなぜこのような形をしているのでしょうか? 一説によりますと、当時の偽金作りが金銀の薄板を貼付け
銅貨を金銀貨に作り替えるのを諦めさせるのが第一の目的だとありますが、はっきりしません。写真はアンティオコス6世
(145-142 BC.)の銅貨(AE21)です。




古代コインの裏・表
コインの表裏はどう決まっているのでしょうか。日本の現代コインでは便宜上年号表示のある方を裏としているようですが、
古代ギリシャのコインではどのように決まっているのでしょうか。製造当時の決まりは記録が残っていませんので分かりませ
んが(というか表裏の認識なんか無かった?)現在はある法則によって決めているようです。それはコインの意匠ではなく、
製造上の打刻面を裏とすることです。ですから意匠を中心に見ますと表裏を取り違えてしまうことがあります。打刻面は平地
部分が表面の刻印に比べ凸状に彎曲していることが多いので判別できます。







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