―コインから見たコリントとその植民市―

古代ギリシャコインの中でもペガサス(表面)/コリント式の兜を被るアテナ(裏面)の刻印が刻まれたコリントのコインは有名ですが、そんなコリントの意匠をもつコインの中に多くのコリント系植民市のコインがあることは、あまり知られていないようです。  この項では、そんなコリントタイプのコインをとおして、ギリシャの植民市の一例を見てみましょう。(植民市にはコリントなどドーリス人系のほかに、イオニア人系やフェニキア人系の植民市もあります。ちなみにカルタゴはフェニキアの植民市として出発した都市です)
ギリシャでは紀元前750〜550頃さまざまな理由で植民活動が活発になりました。 それは人口の増加で不足した農産物の生産をおこなうためや、母国の繁栄に伴う(金属などの)物資不足を補うための交易で中継地が必要になった為です。 コリントの交易先はイタリア、シチリア、ギリシャ西沿岸部、黒海沿岸などで、コインから見ると植民市はギリシャ西沿岸部を中心にイタリア、シチリアなどにあったと思われます。(黒海沿岸ではコリントタイプのコインが見当たりません)またシチリアのレオンティノイは元々イオニア系の植民市でしたが、ペロポネソス戦争の結果コリントの経済圏に組み入れられ、コリントタイプのコインを発行するに至ったようです。  ともかくコリントとその植民市で発行されたコインは、銘文やミントマークを除けば全く同じ通貨を共有していたことが分かります。

コリントの交易とその植民市


コリント(母国)発行
コリントで発行されたコインは表面にコリントの証であるカッパーの文字が刻まれているのですぐ分かります。


兜に月桂冠の飾りのあるタイプ

モチーフの向きが異なるタイプ

ペガサスの変わり形タイプ(割と少ない)


エピダムノス‐ディルハキウム(イリュリア地方)発行
コインの両面にΔ(デルタ)の文字が刻まれています。


ロクロイ(イタリア)発行
コインの表面にΛ(ラムダ)の文字が刻まれているタイプと裏面にΛΟΚΡΟΩΝの文字が刻まれているタイプがあります。


シラクサ(シチリア)発行
コインの裏面にΣYΡΑΚΟΣΙΟΝ(シラクサ)の文字が刻まれています。(一番後のコインは表裏が逆になっているタイプ)


アカルナニア地方の詳細


アンブラキア発行
コインの表面にΑ(アルファ)の文字が刻まれています。


アルゴス発行
コインの表面にアルゴスのシンボルである狼の頭部、裏面にアルゴスの文字が刻まれています。
コリントタイプのミントマークはほとんどが文字による表示ですがアルゴスは例外でシンボルがミントマークになています。


アナクトリウム発行
コインの表面にアルファとニューのモノグラムが刻まれています。


レウカス発行
コインの表面にΛ(ラムダ)の文字が刻まれています。


ティルヘイアム発行
コインの表面にΘ(シータ)Y(ウプシロン)の文字が刻まれているタイプとΘ(シータ)のみのタイプがあります。




不思議な目を持つコリントステーター
コインの女神アテナの目がダブルになっている不思議なコイン。
単なる2重打かとも思いましたが、目以外はすべて正常なので2重打ではないと思われます。





コリントのミントマーク(拡大図)
コリントのステーター銀貨はミントマークも見どころの一つです。







参考資料:PEGASI (Romolo Calciati)、地図で読む世界の歴史/古代ギリシャ (河出書房新社)

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